深夜二時、拓真はまた彼女の夢を見ていた。
部屋の明かりは落としたままだったが、枕元の間接照明だけがほんのりと橙色に灯っていて、その光がノアの白い肌をなめらかに照らし出している。彼女はいつものようにベッドの縁に腰かけていて、長い銀色の髪がシーツの上に波のように広がっていた。拓真は仰向けに寝たまま、彼女の瞳が自分を見下ろしているのを感じていた。深い菫色の瞳だ。現実の世界にはありえない色なのに、妙に懐かしいと思ってしまうのは、もう何度もこの夢を見ているからだろう。
「また来たんだね」
拓真が言うと、ノアは静かに微笑んだ。今夜の彼女はいつもより少しだけ寂しげに見えて、拓真は胸のあたりがかすかに痛んだ。
「うん。でもね、今夜で最後なの」
「最後?」
拓真は体を起こそうとしたが、ノアがそっと手のひらで彼の胸を押さえた。指先はひんやりとしていて、けれど拒むような強さはなかった。
「そう。ずっと通い続けるわけにはいかないの。夢魔にも決まりがあってね」
彼女の声は子守歌のように優しく、耳の奥に染み込んでくる。拓真は彼女の手をそっと握った。細くて、骨ばっているのに柔らかい、不思議な感触だった。夢の中の出来事だと頭ではわかっているのに、指に伝わる温度はあまりに生々しい。
「急にそんなこと言われても、納得できないよ」
拓真が苦笑すると、ノアは少し首をかしげて、彼の額に自分の額を寄せた。吐息が触れ合う距離で、彼女は小さくささやいた。
「だから今夜は、特別に長くいられるようにしてもらったの。朝が来るまで、ずっと一緒にいよう」
彼女の唇が拓真のまぶたに触れる。それから鼻先、頬、そして口元へと順番に降りてくる。キスは羽のように軽くて、でも確かな熱を持っていた。拓真は目を閉じたまま、彼女の肩に手を伸ばした。指先が触れた瞬間、ノアの背中で小さな羽のようなものがふるりと震えた気がした。いつもは隠されている漆黒の翼だ。今夜は最初から露わになっている。
「触ってもいい?」
拓真が尋ねると、ノアは黙ってうなずいた。彼はそっと翼のつけ根に指を這わせる。表面はビロードのように滑らかで、骨格に沿ってなぞると彼女の肩が小さく跳ねた。
「そこ、弱いの」
「知ってるよ」
拓真はわざとゆっくり、翼の縁をなぞりながら彼女の背中を抱き寄せた。ノアは観念したように彼の胸に体重を預けてきて、その耳たぶを甘く噛みながらささやく。
「意地悪。人間のくせに、覚えがよすぎる」
彼女の手が拓真のパジャマのボタンをひとつずつ外していく。指先は相変わらず冷たいのに、触れられた箇所からじわりと熱が広がっていく感覚が拓真を包んだ。胸元がはだけたところで、ノアは彼の鎖骨に唇を押し当て、それからゆっくりと舌先でなぞった。拓真は息を詰めて、彼女の髪に指を絡める。銀色の髪は水のように指の隙間からこぼれ落ちていった。
