同窓会が終わったのは、日付が変わる少し前だった。渋谷の居酒屋を出ると、十月の夜風が火照った頬に心地よい。紗季はスマホを取り出して、乗り換え案内を開く。画面に表示された「終了」の文字に、小さく息をついた。
「終電、終わった」
隣に立っていた翔が、同じようにスマホを見つめながら苦笑する。十年ぶりの再会だった。大学時代、二年ほど付き合っていた彼は、あの頃と変わらない癖で髪をかき上げた。少し頬がこけて、目元に皺が増えたけれど、笑った顔はあのままだ。
「俺も。タクシーで帰るか」
「うん」
翔が手を上げると、すぐにタクシーが止まった。後部座席に二人で乗り込む。紗季が先に「中野まで」と言い、翔は少し迷ってから「俺は目黒」と告げた。運転手が無言でメーターを倒す。
車内に流れるラジオの音量は控えめで、外のネオンが窓を滑っていく。二人のあいだには拳ひとつ分の距離があって、それが近いのか遠いのか、紗季には判断がつかなかった。
「紗季、変わってないな」
翔の声は少し掠れている。酒のせいか、それとも。
「そうかな。十年も経てば、いろいろあるよ」
「そっか」
翔は窓の外に視線を向けた。首都高に乗ると、オレンジ色の照明が一定のリズムで車内を照らしては通り過ぎていく。紗季は膝の上に置いたバッグのストラップを、無意識に指でなぞっていた。
大学四年の春に別れた。理由はお互いの進路の違いだった。翔は大阪の設計事務所に就職が決まっていて、紗季は東京の病院で看護師として働くことになっていた。遠距離は無理だと、どちらからともなく、自然に終わらせたのだ。泣いたのは別れたあと、一人で部屋に戻ってからだった。
「看護師、続けてるんだ」
「うん。今は大学病院の外科病棟。翔くんは建築士になったんだよね」
「一級取れたよ。今は住宅メインでやってる」
「すごい。夢、叶えたんだ」
翔が照れたように笑う。その笑い方も、昔と変わらない。変わらないものが積み重なって、紗季の胸の奥がじわりと熱くなった。
「結婚は?」翔が唐突に尋ねる。
「してない。翔くんは」
