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相部屋の夜

同僚と相部屋、冗談のつもりが戻れなくなる。

6 次閱讀 2,912 2026/9/12 更新

出張先で手違いから同僚の男女がツインの部屋に泊まることになる。夜更けの密室で互いの距離が縮まり、抑えていた感情が静かにほどけていく。

第一章

相部屋の夜

ロントで最後の確認を終えた南が、紙製のキーホルダーを指に引っ掛けたまま戻ってきた。鮎川は並んだスーツケースの横に立ち、ロビーの照明を背に受けながら手元のスマホを閉じる。

「一部屋だけ、らしい」

南の声は抑えられていた。キーホルダーには銀色の数字が刻まれている。部屋番号は一つだけ。

「向かいのビジネスホテル、空いてないか訊いたけど満室だって」

鮎川は数秒だけ南の顔を見た。折り目のついたシャツの襟元が、一日の移動でわずかに崩れている。腕時計に目を落とす仕草を、彼女は黙って観察した。

「ベッド、二つはあるんでしょ」

「一応ツインではある。予約が一つ消えてたみたいで」

「ならいいじゃない。朝まで寝るだけよ」

笑いを含んだ声で言い切り、鮎川は先にエレベーターへ歩き出した。南はその後ろを、半歩遅れて追う。

部屋は十一階の角部屋だった。ドアを開けると消毒液の匂いが薄く残っていて、空調の吹き出し口から低い音が続いている。カーテンは開いたまま、夜景がガラス一面に広がっている。ツインのベッドは壁際に分かれ、窓側の一脚がやや外光を浴びていた。

「先にシャワー使っていいよ」南がスーツケースを壁際に立てながら言った。

「そっちこそ、汗かいてるじゃない」

「大丈夫。明日の資料、軽く見直したいし」

鮎川は髪留めを外し、まとめていた髪を背中に落とした。途端にシルエットが柔らかくなり、南の視線が一瞬だけ彼女の首筋に留まる。彼女は気づかないふりでバッグから化粧ポーチを取り出し、バスルームへ消えた。

シャワーの音が壁越しに響く。南は肘掛け椅子に腰を下ろし、タブレットを開いたが、画面上の文字列は頭に入らなかった。壁に掛けられた鏡には、脱ぎ散らかされた彼女のカーディガンが映っている。

十分ほどして鮎川が戻ってきた。白い部屋着のショートパンツに、胸元の開いた薄手のカットソー。素足のままカーペットを歩き、冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出す。濡れた髪が鎖骨に張り付き、水滴が一筋、胸元へ流れ落ちた。

「南くん、見すぎ」

「ごめん」

「冗談よ。そんなに謝られると、こっちが恥ずかしいわ」

彼女はペットボトルを片手に窓辺へ歩いた。南も立ち上がり、スーツの上着を脱いで椅子の背に掛ける。彼がバスルームへ向かうのを見送ってから、鮎川はベッドの端に腰を下ろした。

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